ふくい総合法律事務所 所長ブログ

このブログは、福井県福井市にある法律事務所の所長弁護士である小前田が日々の業務や勉強の中で得た知識や経験をシェアするためのものです。

AI時代に法律事務所が持続的成長をするために

最近とある経営者合宿に参加した。2日間にわたって、各業界のトップ経営者たちの講演を聞き、経営計画の策定方法を学び、自分自身の事務所の未来について深く考えることができた。

合宿で学んだことの中から、特に法律事務所の経営に活かせる視点を共有したい。

自分自身の学びを整理する意味も込めて、率直に書いていきたいと思う。

 

令和時代に求められる経営の転換

合宿の冒頭で、「令和対応型企業」という概念が提示された。これまでの企業経営とこれからの企業経営は、根本的に違うという話だ。

これまでの企業は、よいものを安く提供することを目指してきた。スケールメリットを追求し、まずはシェアを取ることが重要だった。いわゆるデフレ型の経営だ。

しかし、令和時代の企業経営は違う。価格転嫁によって利益を出し、その利益で賃上げを行い、いい人材を確保して、新しいビジネスを展開する。この好循環を作ることが求められている。

自分が提供するサービスが他にないものであれば、価格転嫁ができる。顧客にとって本当に価値のあるサービスを提供できているなら、適正な報酬をいただくことは何も悪いことではない。むしろ、安易に価格を下げることは、サービスの質を下げることにつながりかねない。

安売り競争に巻き込まれるのではなく、自分たちの提供する価値を明確にして、それに見合った報酬をいただく。その覚悟が必要だと感じた。

 

AI時代における成長戦略

最も衝撃的だったのが、有名コンサルタントによる「AI時代における成長戦略」の講演だ。

「AI時代の本質は、経験と技術の違いが消滅することだ」と断言した。年齢や学歴は関係なくなる。すべてが平準化していく。その結果、分野ナンバーワンでないと残れなくなるという。

これは弁護士業界にとっても、重要な指摘だ。

これまで弁護士の価値は、経験年数や実績で測られることが多かった。しかし、AIが法律知識を瞬時に提供し、過去の判例を分析し、書面作成まで支援する時代になれば、単なる経験や知識だけでは差別化できなくなる。

続けて「AIを制した者が勝者となる」と語った。そして、これからの時代は社員がAIを使えるかどうかが鍵になるという。経営、教育、採用、顧客体験、すべてがAIインターフェースとなる。

実際、AIによって生産性は100倍になる可能性があるという話もあった。時間が10分の1になり、品質が10倍になり、これを掛けると100倍というものだ。

では、どう生き残ればいいのか。

答えは「自らの土俵を見出し、ナンバーワンの旗を立てる」ことだ。

すべての分野で勝負するのではなく、自分が本当に強みを発揮できる分野に特化する。例えば、弁護士なら、労働問題なら労働問題、交通事故なら交通事故、相続なら相続。その分野において地域でナンバーワン、できれば全国でもトップクラスの専門性を持つ。そうすることで、AIでは代替できない価値を提供できる。

さらに重要なのは、AIを積極的に活用する姿勢だ。AIを敵視するのではなく、自分の武器として使いこなす。AIに任せられる部分は任せて、自分は人間にしかできない判断や、依頼者との信頼関係の構築に時間を使う。

これからの時代、自分で考えるだけでなく、AIに経営を分析してもらい、それを実行するという発想も必要になるだろう。AIによって、経営分析もコンサルタントに頼らずにできる時代になっている。

 

データドリブン経営による生産性の向上

有名経営者による「データドリブン経営」の講演は、自分の経営に対する姿勢を根本から見直すきっかけとなった。

講師は、売り場、プロモーション、価格の最適化を徹底的にデータで行っているという。そして印象的だったのが、「売上が悪いときに、なんとなく悪かったから、こうしよう、では駄目だ」という言葉だ。

コンサルティング会社での経験から、講師は徹底的に原因を考える習慣が身についたという。原因がわかれば、有効な施策は打てる。逆に言えば、原因がわからないまま施策を打っても、うまくいかないということだ。

これは法律事務所の経営にも、そのまま当てはまる。

たとえば、ある月の相談件数が減ったとする。多くの事務所では「今月は少なかったね」で終わってしまうのではないだろうか。しかし、データドリブン経営の視点で考えれば、なぜ減ったのかを徹底的に分析する必要がある。

ホームページへのアクセス数は減っていないか。減っているなら、検索順位が下がったのか、それとも検索数自体が減ったのか。アクセス数は変わらないのに問い合わせが減ったなら、ホームページの内容に問題があるのか。問い合わせは来ているのに相談予約に至らないなら、電話対応や初回対応に課題があるのか。

このように原因を掘り下げていけば、具体的に何をすべきかが見えてくるため、有効な施策が打てる。

自分自身を振り返ると、これまで「なんとなく」で判断していることが多かったと反省した。

データドリブン経営とは、数字を眺めることではない。数字の背後にある原因を読み解き、それに基づいて具体的な施策を打つことだ。

講演を聞いて、自分も事務所の数字をもっと丁寧に見ていこうと決めた。なんとなくではなく、データに基づいて判断する。原因がわかれば有効な施策は打てる。

 

まとめ

2日間の経営者合宿を通じて、事務所の持続的成長に必要な視点を学ぶことができた。

弁護士という仕事は、依頼者の問題を解決し、豊かで住みよい地域づくりに貢献するやりがいのある仕事だ。しかし、目の前の事件処理に追われるだけでは、事務所の持続的成長は実現できない。経営者として、事務所の未来を真剣に考え、具体的な行動を起こしていく必要がある。

弁護士として15年間やってきたが、経営者としてはまだまだ学ぶべきことが多い。しかし、学び続け、実践し続けることで、依頼者により良いサービスを提供できる事務所を作っていけると思う。