人生を成功に導くためには、明確な目標を設定し、その実現に向けて一直線に進む「アンカーを下ろす」という考え方が一般的です。しかし、このように計画通りに物事を進めることが必ずしも最良の結果をもたらすとは限りません。時には、思いがけない出会いや偶然の機会が、人生を大きく変える転機となることがあります。
私は弁護士として15年間、多くの依頼者の問題解決に携わってきました。振り返ってみると、自分自身の人生においても、計画していなかった出会いや経験が、今の自分を形作する重要な要素となっています。今回は、そんな「偶然」を「計画的」に活用する「計画的偶発性理論」について、私の経験を交えながら書いていきたいと思います。
「計画的偶発性理論」とは何か
計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)とは、J・D・クランボルツ教授が提唱する、計画的に「偶発性のある行動」を起こしていくことで、人生をより良い方向に導いていくという考え方です。従来の「目標を設定し、それに向かって直進する」という方法だけでなく、様々な可能性に対して開かれた状態でいることの重要性を説く理論です。
【参考図書】
この理論は、鈴木祐さんが提唱する「運の方程式」にも通じるものがあります。運の良い人には共通点があり、それは単なる偶然ではなく、「運を引き寄せる行動様式」を持っているという考え方です。
人間関係の質と量の重要性
人生において成功している人の特徴として、人間関係の築き方に一つの傾向があります。それは、少数の人との「深い関係」を大切にすると同時に、多くの人との「広い関係」も積極的に構築しているということです。
深い信頼関係にある人たちとの絆は、人生の土台となり、困難な時に支えとなります。しかし、新たな可能性を広げるためには、異なる価値観や経験を持つ多様な人々との「広い関係」も同様に重要です。
成功者と呼ばれる人は、この両方のバランスを上手に取りながら、常に新しい出会いにオープンな姿勢を持っています。そして、そうした姿勢が、思いがけないチャンスや情報をもたらし、人生の選択肢を広げているのです。
偶然の出会いを計画的に作り出す方法
では、どうすれば「偶然の出会い」を増やし、計画的偶発性理論を実践できるのでしょうか。最も重要なのは、新しい人との出会いの機会を意識的に作り出し、それをルーティン化することです。
例えば、定期的にセミナーや勉強会に参加する、趣味のコミュニティに加わるなど、自分の日常とは少し異なる環境に身を置く機会を作ることが有効です。特に、オンラインだけでなく、リアルな場での交流は、予想外の出会いや会話が生まれやすく、そこから新たな可能性が広がることがあります。
こうした場に参加することで、単に知識を得るだけでなく、共通の興味や関心を持つ人々と出会い、そこから思いもよらない展開が生まれることがあります。
実体験から学ぶ偶発性の活かし方
私自身の経験を振り返ると、計画的偶発性理論を体現するような出来事がありました。弁護士になって3年目に、たまたま参加したセミナーで、知り合った人にご縁ができ、そこから交通事故の被害者の側の仕事をメインでするようになりました。それが私の事務所の経営戦略を根本から変えるきっかけとなりました。
この出会いは決して計画したものではありませんでしたが、新しい知識を得ようという意欲から参加したセミナーで生まれた偶然の出会いでした。
このように、偶発性を活かすためには、まず新しい環境に自分を置き、そこで生まれた出会いや機会に対して柔軟に対応する姿勢が重要です。
ただし、すべての出会いが良い結果をもたらすわけではありません。時にはいわゆる「ヤバい人」と出会うこともあります。そういった場合は、適切に距離を取り、フェードアウトする判断力も併せ持つことが大切です。
まとめ
計画的偶発性理論は、人生においてしっかりとした目標を持ちながらも、予想外の出会いや機会に対して開かれた姿勢でいることの大切さを教えてくれます。
人生は、計画通りに進むこともあれば、思いがけない偶然によって新たな道が開かれることもあります。「計画的偶発性」という一見矛盾した言葉の中に、実は人生を豊かにする知恵が隠されているのです。